自然災害伝承碑

自然災害伝承碑から災害リスクを考えるポイント

自然災害伝承碑の情報は、過去の教訓を踏まえた的確な防災行動の助けになる情報の1つとして地域での活用が期待されていますが、地域の災害リスクを考えるときは、自然災害伝承碑の情報だけではなく、ハザードマップや地形分類図等の災害リスクを表す他の情報とも合わせて考えることが重要です。
ここでは、地域の災害リスクを考えるうえで自然災害伝承碑の情報の優れている点と、注意点についてまとめました。

優れている点

  • その地域で実際に起こった災害と被害について、簡潔にまとまっている
公開している自然災害伝承碑の伝承内容は、碑文や郷土資料等に記載のある災害記録から活用できる情報を整理して100字程度にまとめたものです。そのため、碑に災害履歴情報がほとんど記載されていない場合でも、自然災害伝承碑がどのような災害を伝承しているのかが分かります。

地理院地図で表示される自然災害伝承碑の情報
地理院地図で表示される自然災害伝承碑の情報
 
  • 災害リスクを表す他の情報に重ね合わせることで、具体性が向上する
自然災害伝承碑の建立のきっかけとなるような自然災害の起こりやすさと地形分類情報には密接な関係があることが明らかになっているほか、自然災害伝承碑の伝承内容は、ハザードマップが示す災害リスクをある程度現実のものとして表現していることが分かっています(岡谷 2022a)。そのため、これらの情報と重ねることで、その地域でどのような災害が起こる可能性があるのか具体的にイメージできます。
 地理院地図や重ねるハザードマップでは、これらの情報を地図上に重ね合わせて確認することができます。

重ねるハザードマップのキャプチャ(洪水浸水想定区域(最大規模))
自然災害伝承碑と洪水浸水想定区域(最大規模)を重ねた地図
(地図をクリックすると、重ねるハザードマップに移動します。)

重ねるハザードマップのキャプチャ(地形分類)
自然災害伝承碑と地形分類(自然地形)を重ねた地図
(地図をクリックすると、重ねるハザードマップに移動します。)

注意点

  • 自然災害伝承碑がないからといって、災害リスクがないとはいえない
ある地域で自然災害伝承碑が公開されていない場合でも、過去に災害に見舞われたことがないとは限りません。その理由は、様々なものが考えられますが、例えば、以下のようなものが考えられます。
  • 地震、火山噴火、豪雨、土石流等の災害を発生させる自然現象は発生していたものの、人が住んでいない等により実質的な被害が発生しなかったため自然災害伝承碑を建立しなかった場合
  • 自然災害伝承碑が建立されていても、国土地理院や自治体がその存在を把握していない場合、もしくは存在は把握しているが登録申請がされていない場合
  • 自然災害伝承碑建立後の開発等により、石碑が撤去・移転された場合
  • 歴史的・文化的背景により、自然災害伝承碑の建立が少ないと推定される場合
 
  • 自然災害伝承碑建立のきっかけとなった災害を引き起こした自然現象と同程度の自然現象が再び発生した場合であっても、再び同様の被害が発生するとは限らない  
自然災害伝承碑は過去の自然災害の被害を記録したものですが、災害後の河川改修等によって碑が伝承するような災害が発生しにくくなっている場合があります。また、自然災害の発生には、災害を引き起こすような大雨等の自然現象だけでなく、地域の土地利用等も影響しています(石井 2007)。自然災害の発生と被害規模には様々な要因が関係しているため、自然災害伝承碑の伝承内容と同規模の災害が再び発生するとは限らないことに注意が必要です。

  • 自然災害伝承碑の存在が所在地一帯の災害リスクをすべて表すものではない
自然災害伝承碑は、様々な種類の災害教訓を伝承するものですが、碑の周辺で同じ災害種別の災害リスクがあるとは限りません。例えば、下図の自然災害伝承碑は、浸水被害の教訓を伝承していますが、この碑の周辺で、土砂災害のリスクも高い場所もあります。また、実際に災害が発生した場所ではなく、地理的に離れた場所に自然災害伝承碑が建立されることもあります(岡谷 2022b)。
洪水を伝承する碑の周辺に土砂災害のリスクがある地点が存在する例
近隣で複数の災害リスクがある場所の例
(地図をクリックすると、地理院地図に移動します。)

参考文献

  • 石井素介 2007. 『国土保全の思想-日本の国土利用はこれでよいのか』 古今書院.
  • 岡谷隆基 2021. 『自然災害伝承碑と地形との関係についての研究(第1年次)』 国土地理院令和2年度調査研究年報.
  • 岡谷隆基 2022a. 『「自然災害伝承碑」が示す場所における自然災害の地形的特性と規模についてー洪水災害を例としてー』. 地図 60: 12-18.
  • 岡谷隆基 2022b. 『自然災害伝承碑と地形との関係についての研究(第2年次)』 国土地理院令和3年度調査研究年報.