Nature誌に掲載された東北地方太平洋沖地震に関する研究論文

東北地方太平洋沖地震に関する研究論文

作成:2011年6月20日 修正:2011年7月29日
国土地理院では,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震についてGEONETによって観測された地殻変動から地震時や地震後の滑り分布の解析を行って,この地震の全体像を明らかにしてきました.このたび,3月末現在での研究成果をまとめた英文での学術論文が,7月21日発行のNature誌(電子版では6月16日公開)に掲載されました.この論文のタイトル,著者及び概要等は以下の通りです.

著者及び論文名:
Ozawa, S., T. Nishimura, H. Suito, T. Kobayashi, M. Tobita and T. Imakiire, Coseismic and postseismic slip of the 2011 magnitude-9 Tohoku-Oki earthquake, Nature, 475, 373-376, doi:10.1038/nature10227.
(和訳)
小沢慎三郎・西村卓也・水藤尚・小林知勝・飛田幹男・今給黎哲郎:  東北地方太平洋沖地震の地震時および地震後のプレート間滑りについて


観測された地殻変動と推定された滑り分布[PDF: 487KB]
図.観測された地殻変動と推定された滑り分布.a 地震時に観測された地殻変動.東北沖の等値線(実線)は,プレート境界面上での推定された滑り量.破線はプレート境界面の等深線を表す.b 地震後に観測された地殻変動.東北沖の等値線(実線)は推定された滑り量.c プレート境界面上での地震時すべり分布.d プレート境界面上での地震後すべり分布.

論文の背景と意義(和訳)

多くの大地震は,大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込む海溝沿いで発生する.モーメントマグニチュード(Mw)が9となるような巨大地震はチリ,アラスカ,カムチャッカ,スマトラといった限られた地域で起こることが知られていた.オホーツクプレートの下に太平洋プレートが沈み込む日本海溝沿いでは,Mw 9となるような巨大地震は知られていなかった.ただし,869年の貞観地震については,その規模がまだ十分に確定されていないので例外の可能性がある.しかしながら,最近の測地観測からこの領域において推定されている歪みの蓄積速度は,過去のプレート間地震で解放された平均的な歪み速度よりずっと大きい.この知見は,この地域ではどのようにして蓄積された歪みを解放するのか,という疑問を投げかける.Mw9.0の海溝型巨大地震(以降「東北地方太平洋沖地震」と記述)が2011年3月11日に発生し,東北日本の太平洋沖のプレート境界を破壊した.本論文ではGPS観測網により観測された地表の変位から推定された地震時および地震後のプレート間滑りの分布について報告する.地震時の滑り領域は,日本海溝沿いの南北約400kmに広がり,これは地震前の固着域と一致している.地震後の滑り領域は,地震時の滑り領域と重なるところから始まり,その周辺に広がっている.特に地震後の滑り領域は,2011年3月25日の段階でプレート境界の深さ100kmのところまで広がり,解放したエネルギーはMw8.3に達している.東北地方太平洋沖地震は数百年分の歪み蓄積量を解放したため,歪み収支の不均衡に関するパラドックスが部分的には解消されたと考えられる.今回の地震は,たとえ過去の地震履歴が見つかっていなくても,Mw9前後の地震が他の海溝系において発生する可能性があることを示したと言える.従って,宇宙測地技術により歪みの蓄積を監視することは,地震発生のポテンシャルを評価する上で必須であると言える.

論文本文の概要

  1. GEONETによる地殻変動観測データから東北地方太平洋沖地震の地震時と地震後のプレート間滑りをインバージョン解析によって推定した.
  2. 地震時のプレート間滑りは三陸沖・宮城県沖を中心とした日本海溝沿いの南北約400km(長軸方向約450km,幅約200km)の範囲に広がっており,最大の滑り量は震央付近で27mと推定されている.
  3. 3月25日までのデータ解析によると,地震後のプレート間滑りは本震の滑り領域の中心よりもやや西側を中心としてその周辺に広がっていてプレート境界の深い側では深さ100kmにまで達している.また解放されたエネルギーはMw8.3相当である.
  4. これまでの巨大地震の例では,地震後のプレート間滑りで本震の30%~100%のエネルギーが解放されたことから,今回の地震の余効滑りも今後同程度のエネルギーを解放すると予想される.
  5. 日本海溝沿いでは,プレートの沈み込みにより蓄積されると考えられる歪みが,宮城県沖地震など数十年から百年程度の繰り返しで発生するM7~8程度の地震では10%~20%しか解消されないことが謎だったが,今回の地震と余効滑りで350-700年分蓄積したことに相当する歪みを解消したと考えられる.
  6. 東北地方太平洋沖地震の震源域にあたる領域では,これまでプレート沈み込みによる歪みは地震間のゆっくり滑りなどでかなりの部分が解消されると考えられていたが,実際は強く固着して歪みを貯めており,巨大地震により解放されることがわかった.他の地域のプレート境界でもプレートの固着状態を正しく知ることが,大地震発生の危険性を評価する意味で重要である.

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