最終更新日:2020年3月10日

地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2020年)

1. 有限要素法による火山の地殻変動計算についての実験
  山田 晋也 (地殻変動研究室)

 火山周辺の地殻変動を計測し、その原因となる力源の位置や形状についての推定を行うことができる。従来の解析解による地殻変動の計算では、平坦な地形を仮定しているため、実地形を反映させた計算ができないが、有限要素法を用いれば、実地形に要素分割を施し、要素ごとの変形を計算することで、実地形を反映させた計算が可能になる。一方で有限要素法は、設定する解析領域も広さや要素の分割数の細かさにより、計算精度と計算時間がトレードオフの関係になる問題が生じる。必要な精度を得るためにどのような値を設定すればよいのか、検証を行った結果を紹介する。

2. 東北地方太平洋沖地震の余効変動は予測できるか?
  藤原 智 (測地部長)

 平成23年東北地方太平洋沖地震の余効変動の時系列に関数近似を行うという手法(Tobita 2016, EPS)を用い、広域にわたる余効変動の予測を行う。余効変動は、主にプレート境界面上の余効すべりと上部マントルの粘弾性緩和により生じていると考えられている。本報告では、地震後9年でも数cm程度の誤差で予測できていること、2015年以降に傾向が変わっていること、さらに各関数が物理過程に関連していることを示す。

3. GLONASS解の8日周期ノイズの除去方法について
  畑中 雄樹 (地理地殻活動研究センター長)

 GEONETの次期定常解析 (F5解析等)においては従前のGPSデータによる解析を実施しているが、それに加えてGPSとは独立なGLONASSデータによる解析を行うことによって、両者の座標解の比較評価による地殻変動シグナルの確認等への利用可能性が期待される。GLONASS解には約8日の周期を持つノイズが含まれるが、その日本周辺における空間パターンはほぼ系統的であるため、GPSとGLONASSの結合解析においては、GLONASSの正規方程式にHelmert変換のパラメータを加えてノイズを吸収させる等の工夫が行われる。しかしながら、GLONASS解自体は8日周期ノイズを含んだままなので、特に長基線においてその有効性は限られる。そこで、GPS解との差を最小化するようGLONASS解にHelmert変換を適用したところ、広域的な8日周期ノイズの大部分を除去できることがわかった。網全体の並進・回転・スケールはGPS解に合わせ込まれているものの、GLONASS解との相似性が保持された半独立な解として、非系統的なノイズの診断・分析に利用できるであろう。

日時:令和2年12月18日(金) 14時00分~16時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1. 深層学習を用いた空中写真からの畑の抽出手法の検討
  白石 喬久 (地理情報解析研究室)

 地理情報解析研究室では地図作成・更新の自動化に向けて、特別研究「AIを活用した地物自動抽出に関する研究」を実施している。その一環として深層学習を用いて空中写真から畑の抽出を行う手法について検討中であるが、学習用データ作成にあたっては、画像の多様性を増加させることが抽出性能の向上に有効と考えられること、畑と誤抽出されやすい地物を含む画像を加えることが誤抽出の減少に有効と考えられることが分かった。本発表では検討を行った内容について報告する。

2. 低価格GNSSや民間等電子基準点を用いた地殻変動把握の可能性
  小門 研亮 (宇宙測地研究室)

 近年、GNSS技術が進展し、低価格のGNSS機器が普及し始めているほか、民間企業によるGNSS連続観測局の整備も進んでいる。こういった背景を踏まえ、低価格GNSS機器や民間のGNSS連続観測局で取得された観測データの品質確認及びキネマティック解析による測位性能評価等を実施したところ、地殻変動把握等の測地分野に活用できる可能性があることを確認した。本発表では、測位性能評価の内容と結果、今後の展望について報告する。

日時:令和2年11月20日(金) 14時00分~15時40分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1. 2018年インドネシア・スラウェシ島の地震(Mw7.5)に伴い出現した地震断層の特徴
  中埜 貴元 (地理情報解析研究室)

 2018年9月28日(UTC)にインドネシア・スラウェシ島で発生したMw7.5(USGS)の地震に伴い、Palu市街を中心に液状化・流動化や津波、断層変位による甚大な被害が生じた。これらの被害の概況や発生メカニズムを調査し、災害復興計画に役立てる知見を得ることを目的としたJICAによる調査団が2018年11月に組織され、その調査団に断層や液状化の専門家として参加した。そこで得られた結果について、地震断層の周辺現象を中心に紹介する。(本調査はインドネシア政府の協力のもと、JICAにより実施されたものです)

2. 深層学習を用いた二重山稜地形の広域分布の推定
  遠藤 涼 (地理情報解析研究室)

 二重山稜地形は、地すべりや深層崩壊との関係が指摘されている地形の一つであり、二重山稜の分布を把握することは、斜面災害リスクを評価する上で重要である。 本発表では、深層学習を用いた画像分類の手法によって、二重山稜の広域分布の推定を試みたので報告する。

日時:令和2年10月16日(金) 14時00分~15時40分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.航空重力測量の解析手法とデータ評価
  兒玉 篤郎 (測地部物理測地課)

 国土地理院では、より精度の高いジオイド・モデルの構築を目指し、2019 年度から航空重力測量による重力の測定を開始した。航空重力測量では、全国の重力データを短時間で均質かつ高密度に取得が可能となるが、良質なデータを得るためには観測データの解析手法とその品質評価の検討が必要となる。本発表では、これまでに行った検討内容について、報告する。

2. 航空重力データを用いた関東地域の重力ジオイド計算
  松尾 功二 (宇宙測地研究室)

 国土地理院では,日本の標高基準系の効率的な維持管理を目的に、従来の水準測量による標高決定の仕組みに、GNSS とジオイド・モデルを用いた新たな標高決定の仕組みを導入することを計画している。その目的のため、国土地理院は、2019 年から全国規模の航空重力測量を実施し、重力データの拡充を図ることで日本列島の重力ジオイド・モデルを精度3cm まで高めることを目指している。本発表では、関東地域の航空重力データを用いた重力ジオイド・モデルの計算結果について報告を行う。

3. MCMC 法による断層面上のすべり分布の推定
  川畑 亮二 (地殻変動研究室)

 国土地理院では、大きな地殻変動を伴う地震が発生した際、すべり分布のモデル推定を行っている。モデル推定においては、観測点の配置等の制限から解を一意に決めることが困難であることが多く、先験情報としてすべり分布が滑らかであるという拘束をかける。一方、観測値と計算値の残差と分布の滑らかさにはトレードオフの関係があるため、拘束の強さを調整するスムージングパラメータを客観的に決定する必要がある。
 今回、Fukuda & Johnson 2008 の方法に従い、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いて断層面上のすべり量とスムージングパラメータを同時に推定するプロトタイププログラムを開発したので、いくつかの地震に対して適応した結果を報告する。

日時:令和2年9月18日(金) 14時00分~16時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.高精度な全国規模の地表変位計測のための干渉SAR技術に関する研究(英国派遣報告)
  森下 遊 (宇宙測地研究室)

 日本学術振興会海外特別研究員として、2018年6月から約2年間、英国リーズ大学に滞在し、干渉SARに関する研究を行った。時系列解析ソフト「LiCSBAS」や自動干渉解析システムの開発、Sentinel-1やALOS-2の膨大なSAR データを使用した国家・大陸スケールの解析事例、2021年度打ち上げ予定の次世代SAR 衛星「ALOS-4」の活用へ向けた展望などについて報告する。

日時:令和2年7月28日(火) 14時00分~15時30分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.迅速・高精度なGNSS定常解析システムの構築
  中川 弘之 (宇宙測地研究室)

 GEONET定常解析の迅速性や時間分解能をさらに高めることを目的として、後処理PPP-AR法を用いた新たな解析手法の構築を行う特別研究を2017年度より本年度まで実施してきた。今回の発表では、1年間の試験期間における解の再現性の評価、本研究と他の手法の解との整合性の評価、及び2016年熊本地震前震とその最大余震の試験解析の結果等について報告を行う。

2.干渉SARで捉えた海外の災害(カリフォルニアの地震とタール火山の噴火)
  山田 晋也 (地殻変動研究室)

 今年度行っただいち2号の緊急解析について報告する。2019年7月6日に発生したカリフォルニア州の地震(M7.1)では、干渉画像に7月4日に起きたM6.4の地震と併せた複雑な変動が見られ、震央の周囲には位相が不連続となる境界線が確認できた。2020年1月12日のフィリピン・タール火山の噴火では、カルデラ湖であるタール湖の南西側を中心に大きな変動が観測された。それぞれの解析結果を通して、それぞれの現象の特徴を紹介する。

3.液状化ハザードマップの掲載情報および表現方法の検討
  遠藤 涼 (地理情報解析研究室)

 多くの市区町村においてハザードマップが作成・公表されている。このうち、液状化ハザードマップを対象として、掲載情報や配色の傾向、表現方法の問題点などを整理するとともに、液状化リスクの理解につながるハザードマップの掲載情報・表現方法について検討したので報告する。

日時:令和2年2月17日(月) 14時00分~16時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)

1.フィリピン海プレート北端部のスロースリップイベント
  小沢 慎三郎 (地殻変動研究室)

 平成28年(2016年)熊本地震発生の後、GNSS観測等により余効変動が観測されている。本発表では、約5年分のだいち2号(ALOS-2)のSARデータを用いた干渉SAR時系列解析により明らかにした、余効変動の面的な広がりおよび時間的な推移の特徴について報告する。また、現在余効変動を説明するモデルの構築に取り組んでおり、その結果についてもあわせて報告する。

2.GNSS連続観測網による火山性地殻変動監視のための広域地殻変動の除去手法
  畑中 雄樹 (地理地殻活動総括研究官)

 水藤2017の成果に基づいて、平成28年(2016年)熊本地震の余効変動を考慮し、西南日本の遷移的地殻変動を解析した。その結果、2018年以降で見ると、2018年6月~2019年秋頃に日向灘北部で、2018年末頃に日向灘南部で、2018年10月~2019年秋頃に豊後水道で、2020年6月頃から日向灘南部で長期的SSEが発生していた。また規模は小さいものの、2020年半ば頃から日向灘北部で長期的SSEが発生していた可能性がある。加えて、2019年1月の種子島近海の地震後に種子島の沖合で地震後の余効すべりが推定された。