最終更新日:2015年11月27日

地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2011年)

1.GEONETデータによる短期的SSEの検出について
:西村 卓也(地殻変動研究室)

 西南日本に発生する数日から10日の時定数を持つ短期的スロースリップイベント(以下、短期的SSE)に伴う地殻変動は、従来、傾斜計や歪計によって観測され、GPSではノイズレベル以下であると考えられてきた。しかし、GEONETの解析戦略の見直しによる精度向上や空間フィルターによるノイズ軽減により、GPSでも短期的SSEに伴う地殻変動を検出できることが明らかになった。1996年7月から2010年12月の間に62個の短期的SSEに伴う地殻変動が検出され、防災科研によって決定された深部低周波微動とほぼ同期して発生している。これらの地殻変動は、フィリピン海プレート上面での滑りによって説明できる。

2.GEONETによる内陸活断層帯周辺での断層すべりの検知能力
:水藤  尚(地殻変動研究室)

 GEONETが全国運用を開始してすでに10年以上が経過し、解析戦略も第4版のルーチン解(F3解)が公開されている。このF3解では従来に比べてノイズが大幅に軽減され、水平成分ではmmオーダーの変動を捉える事が可能となってきている。実際にプレート境界で発生したM6後半クラスの海溝型地震やM5~M6クラスの内陸地震で数mm程度の変動の検出が報告されている。昨年度の談話会においては、プレート境界面上での断層すべりの検知能力について報告したが、今回は内陸活断層帯周辺での断層すべりの検知能力について報告する。想定した内陸活断層帯は、地震調査研究推進本部が長期評価を公表している110の断層帯とした。最終的には110の断層帯すべてで検討を行う予定であるが、今回は、主な活断層帯の中では地震発生確率が高いグループに属する(30年以内に発生する確率が3 %以上)32断層帯の検討結果について報告する。検討内容は以下の2点である。(1)長期評価によって想定されている内陸活断層帯で発生する地震によって、GEONET観測点ではどの程度の地殻変動が生じるのか?(2)内陸活断層帯での断層すべりによって、断層帯のどこでどの程度の大きさのすべりが発生した際にGEONET観測点で検知できると考えられるのか?について報告する。

日時:平成23年12月2日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階
              ※地理地殻活動研究センターは研究棟(旧名称:画像工学棟)に移りました。

1.数値気象モデルにより再現された測位誤差とその原因について
:石本 正芳(宇宙測地研究室)

 桜島周辺及び霧島山新燃岳周辺では、GEONETの定常解析結果に特徴的なばらつきが見られており、地殻変動を監視する上で問題となっていた。そこで、このばらつきが大気遅延による誤差である可能性を検討するため、高分解能数値気象モデルを用いて測位誤差の再現を試みた。その結果、実際の解析結果に見られる特徴的な誤差と大気遅延誤差が整合的であり、原因が大気遅延による誤差である可能性が高いことがわかった。本発表では、現象の概要について紹介するとともに、特徴的な大気遅延誤差が生じるメカニズムについて考察する。

2.公共的屋内空間における三次元GISデータの効率的整備方法の開発について
:乙井 康成(地理情報解析研究室)

 地下街等の公共的屋内空間は、屋外の道路と区別することなく利用されているが、これまでGISデータの整備はそれほど進められていない。 
 近年、歩行者ナビ等のため設計図等の既存資料から簡便な方法でGISデータを作成しようとする動きがあるが、座標値の取得や精度管理などが課題となっている。研究では簡便にこれらを行う方法をマニュアルにまとめることを目指す。この計画について紹介する。

日時:平成23年11月4日(金) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)               
       ※地理地殻活動研究センターは研究棟(旧名称:画像工学棟)に移りました。

1.SAR干渉解析から得られた東北地方太平洋沖地震後に発生した内陸地震の地殻変動と震源断層モデル
:小林 知勝(地殻変動研究室)

 東北地方太平洋沖地震の発生後、地殻内応力の状態が変化したことにより誘発されたと考えられる内陸地震が頻発した(4月11日福島県浜通りの地震(M7.0)など)。
 これらの地殻変動の空間的広がりは10~30km程度であり、GEONETの観測点密度ではその詳細を十分に把握することは困難である。一方、SAR干渉解析を適用することにより、震源近傍を含む地殻変動が高空間分解能で面的に抽出され、震源断層に関する情報が詳細に得られることが期待される。本発表では、福島県浜通りで発生した内陸地震を中心に、そのSAR干渉解析の結果とそれをもとにして構築した震源断層モデルについて報告する。

2.国内VLBI観測シミュレーションに向けて
:高島 和宏(宇宙測地研究室)

 VLBI観測では、指向性の高いパラボラアンテナを使用し、複数の観測局で同時に同じ電波源を受信する必要がある。 
   この特性から、All in ViewのGNSS観測とは異なり、電波源選択などの観測条件を決めた上での観測スケジュール作成の良否が、その測定精度を大きく左右する。 
   従来、電波源の天空上の幾何的配置(Sky plot)から測定精度予測を行う簡易的な計算により、観測スケジュールの良否を判断していた。今回整備したVLBIシミュレーター「Vie_SIM」では、電波源のスキャン毎に得られる群遅延量において、大気遅延量、時計誤差および白色雑音を加えた擬似観測データを作成し、実際の基線解析処理と同じ手順を用いて、測定精度を推定することができる。本発表では、このVLBIシミュレーターの紹介と、動作確認の目的で行った国内VLBI観測のシミュレーション試行結果について報告する。

日時:平成23年10月3日(月) 15時15分~17時00分
場所:国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)               
                 ※地理地殻活動研究センターは研究棟(旧名称:画像工学棟)に移りました。

1.精密単独測位法(PPP)を用いたキネマティック測位について
:宗包 浩志(宇宙測地研究室)

 従来より行われている相対測位によるキネマティックGPS解析では、1) 参照観測点の観測誤差や変動の影響がそのまま測位結果に反映されてしまう、2)参照観測点が欠測すると測位自体が不能になる、という問題があるが、それらを解決する手法のひとつとして精密単独測位法(PPP)によるキネマティック測位(PPP-Kinematic法)があげられる。
 本講演では、PPP-Kinematic法の測位精度について評価を行うとともに、東北日本太平洋沖地震の地殻変動解析に適用した事例について報告する。

2.空撮映像を用いた東北地方太平洋沖地震の津波の計測
:神谷 泉(地理情報解析研究室)

 東北地方太平洋沖地震においては、これまでにない多数の動画が撮影されている。特に、NHK等の空撮映像は、津波の状況を把握するための重要な資料と考えられる。 
 本発表では、空撮映像を用いたいくつかの計測結果を紹介する。(1) 仙台空港付近の海上を進行中の津波(壊滅的な被害を与えた最大波の次の波)の波頭の位置。(2) 名取市閖上地区の陸上を進行中の津波の先頭の位置。(3) 仙台市荒浜小学校における津波の速度と校舎に及ぼした力。(4) 七北田川を遡上する津波の速度。作業の経験から、地上撮影を含め、津波の映像の位置を特定することは可能な場合が多いが、時刻を特定することは困難な場合が多い。

日時: 平成23年9月2日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)        
         ※地理地殻活動研究センターは研究棟(旧名称:画像工学棟)に移りました。

1.合成開口レーダーによる地すべりの監視に関する研究
:岡谷 隆基(地理情報解析研究室)

 特別研究として平成20~22年度の3年間にわたって実施した標記研究について報告を行う。 具体的には、能登半島、月山、東成瀬についてALOS/PALSARによるSAR干渉画像を用い、地すべり性変動の把握や時系列解析等を行ったのでそれらについて発表する。

2.平成23年東北地方太平洋沖地震による宅地盛土被害について-仙台市緑ヶ丘地区を中心に-
:中埜 貴元(地理情報解析研究室)

 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴い、多くの宅地盛土で被害が生じた。特に、仙台市およびその周辺部では1978年宮城県沖地震の際にも被害を受けた地域で再び被害が発生した。 本発表では、仙台市緑ヶ丘地区で発生した被害について紹介するとともに、一昨年度開発した宅地盛土の地震時安全性評価支援システムを用いた盛土の評価結果と実際の被害との関係を考察した結果について紹介する。

日時: 平成23年7月1日(金) 15時15分~17時00分
場所: 国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(画像工学棟 2階
                            
※これまでと開催場所が異なります。

1.GPS/験潮観測による地殻上下変動と経年的潮位変化について―線形トレンド、異なる験潮場間の時間変化の類似性―
:黒石 裕樹(宇宙測地研究室長)

 GPS連続観測点が併置された験潮場(37点)について、地盤の絶対的上下変動と平均海面位の経年的変化を把握する手法の改良に取り組んでいる。験潮観測については潮汐と気圧応答成分を推定・除去した潮位変化を基礎情報とする。まず、上下変動の線形速度に関し、潮位変化と人工衛星アルチメトリー観測との組み合わせと、GPS観測の改良したグローバル解析によるものとで比較する。つぎに、ウェーブレットに基づくコヒーレンス解析手法を開発し、それを適用して得られる、異なる験潮場間の潮位変化の類似性について論じる。

2.数値気象モデルを利用したSAR干渉画像内の大気遅延誤差低減処理について
:小林 知勝(地殻変動研究室)

 SAR干渉解析は,地殻変動を面的に捉えることができる有力な手法として、現在の地殻変動観測には不可欠なツールとなりつつある。しかしながら、初期の干渉画像には、地殻変動だけではなく様々な誤差がcmレベルで含まれていることもあるため、微小な地殻変動の抽出の妨げとなっている。この誤差要因の一つとして、大気による位相遅延が挙げられる。これは、照射されたレーダー波が大気中を伝播する過程で光路長などの変化に伴い、衛星-地表間距離(スラントレンジ)が見かけ上変化することにより発生する.このような背景の下、干渉画像内の誤差の低減を目的として、数値気象モデルを用いた大気遅延誤差の低減処理の有効性を調べたので報告する。

日時:  平成23年3月4日(金) 15時15分~17時00分
場所:  国土地理院 地理空間情報部 輪講室(本館6階)                                  
                 ※これまでと開催場所が異なります。

1.GEONETのルーチン解析を基盤とするGPS統合解析について(その2)
:畑中 雄樹(宇宙測地研究室)

 GEONETのルーチン解を基盤として任意の観測点のデータを統合処理する技術を開発の一環として、前回報告した2周波GPS受信機の観測点を想定した統合解析戦略の構築に引き続き、1周波GPS受信機の観測点を対象とした統合解析のために必要な、電離層遅延補正手法を試行錯誤している。今回は、現在試行している手法を紹介する。
 電子基準点の二周波データの検討により、周波数間バイアスの変動が大きく、one-wayの電離層遅延量の推定にとって無視できないことがわかった。そのため、さしあたり、二重差レベルで整合性の取れた補正を可能とすることを目指している。試行している手法は、二重差アンビギュイティーを解いた上で幾何フリー線形結合を用いて推定された、粗い地域電離層モデルとその二重差残差を制約条件とし、one-wayの幾何フリー線形結合の定数バイアスを未知数として推定するものである。さらに、100200km程度のパッチ状の領域ごと、衛星ごとに、推定された周波数間バイアス込みの電離層遅量に対して適合する平面を、観測点ごとの周波数間バイアスとともに推定する。基線解析においては、この平面モデルを内挿して補正量を求め適用する。このとき、補正誤差の増大を避けるため、解析対象とする観測点になるべく近い電子基準点を参照点とする。
 この解析手法により得られた基線解の短期再現性(RMS)は、おおむね、F3解の2~3割増しである。ただし、一部の離島地域(特に南西諸島)では再現性が悪く、電子基準点の分布等の地理的な条件の悪さが障害要因となっているものと思われる。

2.VLBI相関処理技術を利用した時空情報正当性に関する基礎研究(中間報告)
:高島 和宏(宇宙測地研究室)

 近年、地理空間情報利用が拡大してきており、「いつでも、どこでも、誰でも」位置情報を活用できるユビキタス社会が実現しつつある。このような社会情勢の中、利用する位置情報の信頼性確保が必要不可欠となってきている。また、多くの場合、位置情報は、その位置が決定された時刻とセットの4次元情報として利用されるため、位置および時刻を合わせた時空情報としてその正当性を証明することが求められる。そこで、本研究では、国家位置基準を定めている国土地理院(GSI)と日本標準時を定めている情報通信研究機構(NICT)が中核となり、国家標準にトレーサブルな時空情報であるかどうかの正当性を検証する手法を開発することを目的としている。本研究課題は、平成21年度より4カ年計画で科学研究費補助金(基盤A 21241043)を受けて実施しており、前半2年間に実施した時空情報正当性検証データ取得装置開発等の研究内容について報告する。


日時:  平成23年2月4日(金) 15時15分~17時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(本館6階)

1.GEONETによる日本列島周辺のプレート境界面上の断層すべりの検知能力
:水藤 尚(地殻変動研究室)

 西南日本では、東海、東南海、南海地震が繰り返し発生してきた。これらの地震が発生する確率は高い。このため、将来的にプレート境界のどの場所でどのくらいの規模の地震が発生するのかを推定しておく必要がある。プレート境界のどの場所でどのくらいエネルギーが蓄積したら地表面がどのように変動するかわかっている。このことから陸上の地面の変動量を詳細に調べることで、逆問題として、プレート間の固着状態を推定することができる。本研究では、GPS観測によって得られた地表変動から過去15年間のプレート間固着の時間・空間変化の推定結果を報告する。

2.フィリピンにおけるGPS連続観測について
:今給黎 哲郎(地理地殻活動総括研究官)

 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震以後大規模な余効変動が広範囲に観測されている。現在この余効変動の発生原因はプレート境界面上のすべり(余効すべり)によるものと考え、そのすべり分布が推定されている。しかしながら、長期間に渡って継続する余効変動の原因には、余効すべり以外に粘弾性緩和というメカニズムがある。両者の大きな違いはその影響が及ぶ範囲と時定数である。震源域近傍の地震後数年程度の余効変動は余効すべりによる変動として解釈されることが多いが、震源から数百km離れた場所の変動や数十年程度継続する変動は粘弾性緩和による余効変動と解釈される。本発表では、東北地方太平洋沖地震に伴う粘弾性緩和による変動の数値シミュレーションによる定量的な見積もりについての取組と現在までに得られた結果について報告する。

日時:  平成25年1月15日(火) 15時15分~17時00分
場所:  国土地理院 地理地殻活動研究センター セミナー室(研究棟 2階)