最終更新日:2023年3月28日

プレート運動による地殻変動の補正(定常) 導入背景と補正概要

導入背景:地面は絶えず動き続けている

日本列島は4つのプレートの境界にあり、それぞれのプレートは太古の昔から動き続けています。

日本列島周辺のプレート

1996年から1999年の定常的な地殻変動

このプレートの運動は、地震や火山噴火の原因になります。また、地震が起きていないときでも、1年間に数センチメートル程度地面は絶えず動いています※1。これを地殻変動と呼びます。

VLBIと呼ばれる測量技術により、大陸間という大きなスケールの地殻変動を観測することができます。VLBIにより、日本とハワイは年間約6センチメートル、10年間で約60センチメートル近づいていることが分かっています。
※1 場所によって大きさは異なります。

大陸間の地殻変動

石岡測地観測局のVLBIアンテナ

日本とハワイは近づいている

下の図は 電子基準点の結果から計算した、 地殻変動の様子を表しています。

この図から、
1.十数年間で数十センチメートルの動きがみられること
2.地殻変動(向きと大きさ)が一様ではなく地域によって異なること
が分かります。

こうしたプレート運動による地殻変動は、1997年以降で最大2メートル程度まで蓄積しています。
また、地殻変動による平均のひずみ速度は約0.2ppm/year(10キロメートル先で2ミリメートル程度のずれ)であることが分かっています。

電子基準点の座標変化量(1997-2010)

電子基準点の座標変化量(2011-2022)

導入背景:位置の表し方には基準がある

地図上の位置情報とGNSSで得られる位置情報

○地図に描かれているのは過去のある時点の位置
プレート運動による地殻変動は、日本全国で絶えず生じており、全国の地図を絶えず修正するには、多くの費用と手間がかかります。 このため、地図の位置情報(緯度、経度、標高など)は、過去のある時点(基準日)の数値で表すことにしています。※2  ※2 たとえ新しい道路でも、地図上では、「1997年1月1日(2011年5月24日)時点ならばそこにあったであろう場所」に描きます。

2011年東北地方太平洋沖地震の影響を大きく受けた東北と関東を中心とする地域は、地震後に位置を決め直した2011年5月24日が基準日です。 それ以外の地域は、1997年1月1日を基準日としています。
これらの基準日のことを「元期(げんき)」とよびます。


○GPSやみちびき等で得られるのは計測した時点の位置
一方、スマートフォンやカーナビなどでGPSやみちびき等を使って得られる位置情報は、計測した今現在のものです。
計測した日のことを「今期(こんき)」とよびます。

  

みちびき4機体制 (出典 内閣府)

導入背景:何が問題になるのでしょうか

[1]GPSやみちびき等で計測される位置が地図とズレてしまう
基準日の位置で描かれた地図上に、GPSやみちびき等で計測される今現在の位置情報をそのまま重ねると、基準日から現在までの間にプレート運動による地殻変動が蓄積しているため、ズレてしまいます。

GPSやみちびき等を利用して得られる精度の高い位置情報を、より高度に、より便利に使おうとすればするほど、このズレが問題になります
※3
クリックで ※3の補足を表示 ※3 現在のスマートフォンやカーナビのGNSSの精度は、10メートル程度といわれています。そのような粗い精度の位置情報は、おおよその現在位置を知る用途に使われるため、最大2メートル程度の地殻変動によるズレはほとんど問題になりません。一方、GPSやみちびきの測位補強サービスなどでは、位置情報の精度が1メートル程度から数センチメートル程度にまで高まります。また、地図の精度は、MMS(モービルマッピングシステム)などの新しい測量技術を用いると数十センチメートル程度になります。こうした高い精度の地図と位置情報を高度に組み合わせたさまざまなサービス(ドローン宅配や自動運転、農機や建機の自動制御など)の実現が期待されますが、高度に利用しようとすればするほど、地殻変動によるズレが問題になる可能性があります。

GPSやみちびき等による位置と地図のズレ

 参考:正しい位置なのにズレる? ~ドラマで描く地図と位置情報の未来~

[2]ひずみにより地図上の基準点の位置を正しく測量することができない
[1]の今現在の位置情報を知りたい場合と異なり、過去に設置された基準点を元に新しい基準点の設置をする測量を行う場合など、周囲の既設の基準点と整合していることが必要な場合には、時間の経過とともに基準点網のひずみの問題が生じます。
 
地図上の基準点は、基準日の位置座標(測量成果)の値が使われています。地殻変動により、基準日の位置座標(測量成果)と現在の位置情報の基準点の位置座標の乖離(かいり)が進みひずみが蓄積します。網が歪んでしまうため、新しい場所の位置を正しく測量することができません。

そこで、定期的に測量を行い基準点の測量成果をその都度改定すれば、 測量成果と観測結果が常に整合すると考えられます。ただし測量成果を改定するとなれば、今あるすべての測量成果を一斉に 改定しなければなりません。

現在国家基準点だけでも約12万6千点、さらにこれを上回る数の公共基準点が存在しています。 それらをもとに測量して得られた地図(都市計画図等)や境界標識まで含めると、 現在世の中に流通している測量成果は莫大な数に上ります。


定期的に成果改定を行うことになれば膨大な手間と費用がかかるため、 今のところ現実的ではありません。現状では、一度求めた測量成果を頻繁に改定することはありません。しかし激しい地殻変動のため、時間が経つにつれて 測量成果の精度は劣化していきます。

導入背景:位置情報を矛盾なく使うためには補正が必要

既にある多くの地図と、GPSやみちびき等による高い精度の位置情報を重ね合わせて十分に活用するために、また、地殻変動による地図上の基準点間のひずみを解消し、正しく測量するためには、地殻変動によるズレを補正する必要があります。

年間数センチメートルほどの地殻変動を日本全国で長期間、詳しく調べるために、国土地理院は「電子基準点」と呼ばれる観測装置を開発し、全国約1300か所に設置しています。

電子基準点で把握した地殻変動の情報を利用することで、地図の基準日以降に蓄積した地殻変動によるズレを推定することができます。
このズレを補正量として使用することで、問題が解消されます。

電子基準点(つくば1)

補正方法:どのような補正方法があるのでしょうか?

プレート運動による地殻変動の補正には目的に応じて2つの方法があります。

1つは、[1]の課題を解消する、地殻変動により生じる地図(地理空間情報)とGPSやみちびき等による高い精度の位置情報、すなわち、単独測位に基づく高精度測位情報の測位とのズレを補正するために用いられる「定常時地殻変動補正」

もう1つは [2]の課題を解消する、地殻変動によるひずみの影響を補正するために用いられる「セミ・ダイナミック補正」です。

それぞれの補正では、位置に対応した変動補正量を与える「補正パラメータ」を使用して補正を行います。  「定常時地殻変動補正」と「セミ・ダイナミック補正」のどちらもパラメータの作成方法は共通していますが、使用目的や測量方法に応じ補正パラメータ提供の頻度を変えて提供しているため、定常時地殻変動補正のパラメータを「定常時地殻変動補正パラメータ」、セミ・ダイナミック補正のパラメータを「地殻変動補正パラメータ」とし区別しています。

 クリックで 定常時地殻変動補正の概要を表示  定常時地殻変動補正:
準天頂衛星システム「みちびき」のセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)や精密単独測位(PPP)などを利用した高精度な測位情報の利用が、様々な分野で進んでいます。
定常時地殻変動補正は、「高精度測位情報を国家座標に基づく地図などの地理空間情報に整合させる」ことを目的とします。
高精度測位情報を地図などの地理空間情報と組み合わせて高度に利活用することにより、建機や農機の自動制御、ドローン物流、移動支援、混雑状況の把握、自動走行などの高度な活用が可能となります。
定常時地殻変動補正は地図と測位のズレを元期から今期、今期から元期のいずれかの補正をしてそのまま用いるため、定常時地殻変動補正パラメータを年4回更新(3か月ごと)しています。
 クリックでセミ・ダイナミック補正の概要を表示  セミ・ダイナミック補正:
「測量成果を改定せずに、既存の測量成果と観測結果の間に生じる地殻変動の ひずみの影響を補正する」ことを目的とします。
セミ・ダイナミック補正を行うことにより、 測量を実施した今期の観測結果から、測地成果2011の元期において得られたであろう測量成果を高精度に求めることができます。
この仕組みにより、既存の基準点の成果を改定する必要がないので、現行の成果をそのまま安定して利用することができます。
また、測量計算の際に地殻変動の影響を補正することにより、 測量計算の精度を確保できます。
セミ・ダイナミック補正用の地殻変動補正パラメータは元期、今期間の往復補正を行うため通常は年1回更新(毎年度4月1日)しています。
原則として4月1日から翌年3月31日までの年度単位を適用期間とします。

補正パラメータの作成概要

 定常時地殻変動補正パラメータ及び地殻変動補正パラメータ(以下、「補正パラメータ」という)は元期から今期までに生じた地殻変動を表すもので、 電子基準点でのGNSS連続観測等で検出された地殻変動量を基に作成しています。

 下図の赤い矢印は、電子基準点等で検出された地殻変動量を表しています。
 電子基準点等で検出された地殻変動量をもとにクリギング法という補間法を用いて、約5キロメートル間隔の格子点上での地殻変動量を求めます。
 この格子点上の地殻変動量(図では緑の矢印)を、「地殻変動補正パラメータ又は定常時地殻変動補正パラメータ」と呼びます。
 
地殻変動量作成のイメージ図
次に格子点上の地殻変動量から、任意の点での地殻変動量を求めます。
求めたい点に最も近い4つの格子点の地殻変動量(=補正パラメータ/緑の矢印)をもとに、 バイリニア補間法で求めます(青の矢印)。

 近接する4つの格子点を使用
格子点上の地殻変動量から、任意の点での地殻変動量を求めるバイリニア補間法の計算は、国土地理院が提供するセミ・ダイナミック補正支援ソフトウェア「Web版SemiDynaEXE」又は定常時地殻変動補正サイトを使って 簡単に行うことができます。
「元期から今期への補正」では、元期の座標値に算出された地殻変動量を加えます。また、「今期から元期への補正」では、今期の座標値から算出された地殻変動量を差し引きます。


バイリニア補間(双線形補間)

補正パラメータの仕様

補正パラメータの格子は、統計に用いる標準地域メッシュおよび標準地域メッシュ・コード(昭和 48 年行政管理庁告示第 143 号、JIS X 0410:2012 地域メッシュコード、以下「3次メッシュ」および「3次メッシュコード」という。)の末位2桁が 00,05,50,55 に該当する3次メッシュの南西角と一致し、「該当する3次メッシュの南西角のコード、元期から今期までの緯度の地殻変動量(秒)、経度の地殻変動量(秒)、高さの地殻変動量(メートル)」の4つのカラムで表現しています。

なお、3次メッシュコードから格子点の位置を秒単位で求めると、緯度、経度それぞれ 150 秒、225 秒の整数倍となります。

補正パラメータは、基本的に陸域だけをカバーしていますが、海岸地域の補正計算を行うために、海上側の格子点が必要であることから、海岸付近にある海上の格子点の値を生成しパラメータに含んでいます。

補正パラメータはテキストデータです。仕様の詳細は補正パラメータのヘッダーをご参照ください。

 補正パラメータの仕様
 

補正パラメータの提供範囲

補正パラメータは、日本国土をカバーするように作成しています。
このうち一部地域は、近傍に電子基準点がない等の理由で一定精度の補正パラメータを作成できないため、提供していません。
利用可能な補正パラメータが提供されない範囲については、 必要に応じて国土地理院の技術的助言を求めてください。

補正の対象

補正の対象とする地殻変動は、電子基準点等で検出可能な地殻変動とします。
具体的な例は、以下のとおりです。

補正の対象とするもの
  • 地殻プレート運動に伴う定常的な地殻変動
  • 一時的な広域地殻変動(スロースリップ、余効変動等)
  • 広域的な地盤沈下
補正の対象としないもの
  • 地震に伴う地殻変動(成果の改定を行う)
  • 1点だけの局所的な地盤変動、人工的ノイズ(原因を調査する)

さらに詳しく知りたい方へ

​ ご紹介した内容をさらに詳しく解説しています。

誰もが安心して正確な位置情報を使える社会を支えるために

国土地理院では、2009年からプレート運動に伴う「地殻変動によるズレ」を補正する仕組みを測量分野に導入し、高精度測位社会の到来に向けて、みちびきなどを利用するサービスにおいても補正が可能となるような仕組みを整備・拡大してきました。今後も誰もが安心して正確な位置情報を使える社会を支えていきます。 高精度測位社会のイメージ