最終更新日:2024年10月10日

地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2024年)

講演要旨集(2024年)

第183回 令和6年10月25日

1.国連地球規模の測地連携拠点(UN-GGCE) - 持続可能な地球規模の測地サプライチェーンに向けて -
 宮原 伐折羅 (地理地殻活動総括研究官)

地球の形状や動きを表現した測地基準座標系や地球回転パラメータは、地球における社会・科学活動に正確な位置情報を与える鍵であり、国連総会は、その価値を認めて加盟国へ維持を求める決議を2015年に行った。しかし、測地観測局や専門家の偏在や不足など、必要とされる取組は、未だ持続可能でなく、意思決定層はじめ広く理解促進が緊急の課題である。発表では、国連が取組を加速するために設立した地球規模の測地連携拠点の活動と日本の貢献を紹介する。

2.脆弱地質や土層厚を考慮した斜面崩壊用ゾーニングマップ作成に向けた取り組み
 岩橋 純子 (地理情報解析研究室)

地震時の主要な地盤災害として斜面崩壊があり、脆弱な地域を事前に把握しておくことは防災減災への喫緊の課題となっている。表層崩壊の発生斜面には地形的に似通った特徴が見られるが、火山地など表土・地質構造が脆弱な領域では、他地域では崩壊が少ない地形でも多発するケースが見られ、岩相分類的な地質情報や、表土の情報を何らかの形で溶かし込む必要がある。まだブレインストーミングの段階ではあるが、地形地質ゾーニングマップの作成について、目的・途中経過を紹介する。

第182回 令和6年9月20日

1.日本とその周辺のジオイド変化
 松尾 功二 (宇宙測地研究室)

国土地理院は日本の標高基準系を水準測量に基づく仕組みからGNSSとジオイドに基づく仕組みへと移行することを計画している。地球の物理形状であるジオイドは、幾何形状に比べると極めて安定しているが、近年の気候変動や巨大地震に伴う質量再配分によって時々刻々と変化している。本研究は日本の新たな標高基準系の効率的かつ効果的な維持管理を目的に、日本とその周辺のジオイド変化の定量評価を行う。

2.常時微動計測で知る桜川低地と恋瀬川低地の地盤構造と災害リスク
 小荒井 衛 (地理情報解析研究室 客員研究員 茨城大学大学院理工学研究科(理学野)教授)

霞ヶ浦の土浦入りの河口部である桜川低地と高浜入りの河口部である恋瀬川低地で常時微動計測を行い、地下の地盤構造を把握した。その結果を元に、低位段丘と自然堤防の区分、桜川低地での埋没段丘と埋没谷の存在、桜川低地の地形発達史の考察、桜川低地と恋瀬川低地の地盤災害リスクの違い等については、現時点での自身の考えについて報告したい。

第181回 令和6年7月29日

1.self-similarタイプの Haar waveletを用いた2時期sentinel-2画像を用いた自動変化抽出の初期検討
 笹川 啓 (地理情報解析研究室長)

地理情報解析研究室では令和6年度から「画像処理の活用による効率的な国土情報の解析手法に関する研究」を行っており、2時期の空中写真や衛星画像を用いた自動変化抽出に関する一般研究を行っている。本発表では2時期の間のエッジ変化に着目して、self-similarタイプの Haar waveletによるエッジ変化量を求める検討を行っており、現在の進捗状況と、本研究の核となるself-similarタイプの Haar waveletについて紹介する。

2.SfM-MVS 解析による1977-82年有珠火山活動の地表変位計測
 吉田 一希 (地理情報解析研究室)

地理情報解析研究室では、令和5年度から過去の空中写真とSfM-MVS技術を用いて、過去の地形データの作成手法とその活用に関する特別研究を行っている。本発表では、本研究の概要と初期結果の一部を紹介するとともに、1977-82年有珠火山活動における地表変位の空間分布計測を行った事例を紹介する。

第180回 令和6年3月21日

1.地震時地盤災害推計装置SGDASの令和6年能登半島地震に関する推計結果について
 岩橋 純子 (地理情報解析研究室)

SGDAS(スグダス)は、国土地理院で2010年度~2012年度に開発され、その後の試験運用を経て、2019年6月から公式運用された地震時地盤災害推計装置で、地震後15分程度で地盤災害(斜面災害・液状化)の発生可能性の推計を行い、マップを作成して省庁・自治体等の防災担当者にレポートを配信するものである。本発表では、令和6年能登半島地震の本震に関する推計結果と、斜面崩壊・液状化の発生箇所の簡易的な比較結果について紹介する他、最近の改修内容、今後の展望について述べる。

2.小型GNSS観測装置の開発と試験観測
 松本 紗歩 (宇宙測地研究室)

宇宙測地研究室では,高い配点密度のGNSS観測で地殻変動の時空間変化を精密に捉える手法の開発を行っている.本研究では,高密度観測を実現するため,機動性に優れた小型GNSS観測装置を開発してきた.開発した小型GNSS観測装置は,GNSSアンテナおよび受信モジュールを内蔵した受信機部より構成され,持ち運びが簡便にできる点が特徴である.地殻変動把握への適用可能性の検証のため,令和2年12月頃から活発な地震活動が継続している石川県能登地方および局所的な地殻変動が顕著な千葉県内に装置を設置し,観測を実施してきた.本発表では,当該地域におけるこれまでの観測の様子とアンテナの設置安定性の検証の結果について報告する。

3.浸水被害軽減に向けた浸水推定図の活用方策の検討
 山後 公二 (地理地殻活動研究センター長)

令和5年7月に筑後川流域で豪雨による浸水被害が発生した。筑後川流域は、洪水に関する自然災害伝承碑が複数登録されており、度重なる豪雨災害の歴史がある。本発表では、筑後川流域で作成された浸水推定図をもとに、治水地形分類図、総務省の国勢調査の結果と重ね合わせ、地形分類別の浸水特徴や浸水地域とその周辺の人口構成の分析など、浸水被害軽減に向けた視点から浸水推定図の活用について検討した結果について報告する。

第179回 令和6年2月16日

1.GEONETによる日本列島周辺のプレート境界面上の断層すべりの検知能力と検知時間
 水藤 尚 (地殻変動研究室)

いわゆる地震予知の3要素は、いつ、どこで、どの程度の大きさを知ることである。日本列島周辺のプレート境界面上において、GNSS、歪み計、傾斜計、地下水位観測、海底圧力計等の測地観測により、どこで、どの程度の大きさの断層すべりが検知可能かについての報告例が多数ある。しかし、いつを示す時間に関する検討は非常に難しく、ほとんど報告例がない。本発表では、断層すべりの検知能力の結果を基に、断層すべりが発生からどの程度の時間で検知可能かについて報告する。

2.2018年以降の南海トラフ沿いのSSEの検出
 小沢 慎三郎 (地殻変動研究室)

本研究では、GNSSネットワークによって検出された、南海トラフの沈み込み帯における 2018 年以降の遷移変動に基づきプレート境界面の滑りを推定した。 その結果、2018年7月から2019年8月にかけて日向灘北部と豊後水道で長期スロースリップ(l-SSE)が発生し、2018年末には日向灘南部で別のl-SSEが発生したことが示された。さらに、2018年から2019年の後、日向灘南部のl-SSEは2020年半ばから2021年初めと2023年1月に発生し現在も進行中である。 2019年の種子島地震後、約4年間にわたってl-SSEが発生した。 種子島地震の余効滑りのMwは6.7と推定され、本震(Mw6.4)よりも大きい。四国中部のl-SSE(Mw 6.5)、紀伊水道 l-SSE (Mw 6.3) が推定された。一方、2022 年 10 月の Mw 5.7 の地震後に検出された大隅半島沖の滑りは、2023 年 7 月まで継続した。2020年から紀伊半島でも非地震性滑りが発生した可能性がある。