1.平成28年(2016年)熊本地震の余効変動モデル
桑原 將旗 (地殻変動研究室)
プレート間固着状態の推定の高精度化には、内陸活断層による粘弾性緩和の影響を取り除く必要がある。今回は、平成28年(2016年)熊本地震の余効変動から粘弾性構造モデルの構築を試みた。余効変動のデータとしてだいち2号(ALOS-2)の干渉SAR時系列解析の変動結果から、余効変動を説明する粘弾性構造モデルを試行錯誤的に推定した。2層成層モデルを構築することによって、断層付近から離れた場所における大まかな変動分布が再現できた。しかし、阿蘇カルデラ内での実際の変動とモデルにずれが生じる課題が残っており、今後地殻内構造の不均質性を取り入れた分析を行う予定である。
2.マルチGNSS-PPP解の整合性
中川 弘之 (宇宙測地研究室)
GEONETのF5解とGPSとGLONASSデータによるPPP解との間には、上下方向にアンテナ・架台タイプに依存した-2cm程度(上向きを正。以下同じ)のバイアスが見られる。この原因を調査するために、[1]F5解とIGS暦を使用したPPP GPS解(解析手法の違い) [2]IGS暦を使用したPPP GPS解とPPP GPS解(地理院で作成した後処理暦を使用)(暦の違い) [3]PPP GPS解とPPP GPS+GLONASS解(解析に使用する衛星系の影響) [4]GPSとGLONASSに適用する位相特性モデルを変えてのPPP GPS解とPPP GPS+GLONASS解(位相特性モデルの違い) の比較を行った。その結果、解析手法の違いによってアンテナ・架台タイプに依存した-7mm~15mm程度の、暦の違いによって-20mm~-15mm程度の一定のバイアスが生じた。一方、衛星系・位相特性モデルの違いの影響は比較的小さく、バイアスは±5mm程度であった。すなわち、F5解とPPP解の間のバイアスの大部分は解析手法の違いと暦の違いに由来するといえる。
1.重力ジオイド計算における解析的下方接続の数値的検証
松尾 功二 (宇宙測地研究室)
重力データの下方接続はジオイド計算において最も重要な化成処理の一つである。本発表では、解析的手法に基づき様々な条件(重力異常の種類、地形凝縮深度、展開次数、反復数)で下方接続計算を行い、日本の精密重力ジオイド構築にとって最も適した条件を検証する。さらに、下方接続の処理の違いにより日本最高峰の富士山の標高がどの程度変わりうるかも評価する。
2.大正関東地震における土砂崩れ
遠藤 涼 (地理情報解析研究室)
今から100年前に発生した関東地震では、平野部で建物の倒壊や火災、津波浸水による甚大な被害が発生した一方で、山間部では多数の土砂崩れが発生した。特に神奈川県西部は土砂崩れの被害が著しく、現地調査によって日本初と言われている土砂移動分布図が作成された。本発表では、この地図データを用いて、関東地震における土砂崩れの分布と地形地質や地震動等との関係を解析したので、その結果を報告する。
1.平野部における自然地形DEM・人工地形DEMの作成
吉田 一希 (地理情報解析研究室)
平野部における自然地形・人工地形の把握は、地形分類図の作成や自然災害リスクの評価に重要である。航空レーザDEMの普及により高解像度の地形解析が可能となったが、人為的な改変が多い平野部では、自然地形のみを対象とした微地形解析は困難である。本発表では、旧河道などの微地形を保持した自然地形DEMの作成手法について報告する。
2.解像度とデータソースの違うDEMの尾根谷密度の特徴について
小荒井 衛 (地理情報解析研究室 客員研究員 茨城大学大学院理工学研究科(理学野)教授)
国土地理院で提供されている数値標高モデル(DEM)は、グリッドサイズ5m、10mがあり、データソースも地形図等高線、写真測量、航空レーザと様々である。これらのDEMが、地形解析の際にどの様な違いが発生するのかを尾根谷密度を事例に検討した。その結果、山地部では等高線DEMと航空レーザDEMとで各地域の尾根谷密度の数値には大きな違いがあるが、数値の大小の傾向は共通していた。また地質との対応では、蛇紋岩で尾根谷密度の数値が小さいという特徴は共通していた。一方平野では、各地域の尾根谷密度の数値だけでなく数値の大小の傾向にも共通性は無く、航空レーザの方では人工的な地形(畦畔など)を取得してしまっていることが影響している。また、取得年度が違う航空レーダデータ同士でも数値が大きく違っていたので、解析の際には注意が必要である。
1.2023年トルコ地震のSAR解析(1)
宗包 浩志 (地殻変動研究室長)
2023年2月6日にトルコ共和国においてM7.7及びM7.6(トルコ防災危機管理庁による)の地震が発生し、大きな被害をもたらした。国土地理院は、地震発生後すぐに、事務局をつとめる地震予知連絡会WGを通じて日本の地球観測衛星「だいち2号」の緊急観測を要請した。また、観測データをいち早く解析し、ホームページ上で公開するとともに、関係機関への周知及びデータ提供を行った。本発表では国土地理院の取り組みを報告するとともに、日本で発生した内陸地震と比較しながら、「だいち2号」データの解析で明らかになった地震の概要について報告する。
2.2023年トルコ地震のSAR解析(2)
小林 知勝 (宇宙測地研究室長)
2023年トルコ地震に伴う地殻変動解析から得られた諸々の知見を紹介する。初めに、断層近傍の3次元変動分布から、既知の断層との位置関係を精査し、今回どのセグメントが破壊に寄与したのか、どこで破壊が停止したのかの詳細を示す。さらに、歴史地震との検証からすべりの蓄積量と解放量を比較し、エネルギー収支の観点から地震サイクルに関する議論を行う。このほかにも、最大余震の発生と静的応力変化の関係、本震に誘発されたとみられる受動的な断層性すべりや火山性変動について紹介する。
1.GPSおよびGLONASSの受信アンテナ位相特性の違いとその影響(その2)
畑中 雄樹 (地理地殻活動研究センター長)
GEONET観測点の受信アンテナおよび架台について、GPSとGLONASSに対する位相特性の違いを無視すると、両者の基線解の高さ成分にcmオーダーの系統差が生じる場合があることを、昨年の談話会において報告した。4種類のアンテナと5種類のアンテナ架台型の組み合わせについて行われた検定のデータを解析し、GPSおよびGLONASSに対する位相特性を推定した。得られた位相特性モデルを検定観測のGLONASSデータ適用し、F5解析と同様の設定で解析したところ、GPS用モデルを適用した場合の高さ成分のバイアスはアンテナ機種および架台型の組み合わせによって異なり、その大きさが最大で2cmを超えること、GLONASS用モデルを適用することによりバイアスが改善することを確認した。得られた位相特性モデルをGEONET全点に適用してF5解析戦略による解析を実施して、その効果を評価した。その結果、GLONASS解とGPS解の上下成分の較差のバイアスの平均値が13.0mmから3.8mmに、標準偏差が9.5mmから6.3mmに減少することが確認された。
1.南海トラフ沿いで発生する大規模地震の粘性緩和による変動と粘弾性構造
水藤 尚 (地殻変動研究室)
地殻変動研究室では、「南海トラフ沿いの巨大地震発生に対応するための高精度な地殻活動把握手法の研究開発」を実施している。本研究では、その一環として西南日本の地下構造(粘弾性構造)モデルの構築に取り組んでいる。最終的には、粘弾性構造と粘性率の推定が重要であるが、本発表ではその前段階として、粘性緩和による変動は、(1)粘弾性構造のどの領域が地表のどの場所の変動に影響するのか、(2)地震後1年間と数十年後でどのような違いが出るのか、(3)南海トラフ沿いの東側と西側で地震が発生した場合に違いが出るのか、について報告する。
1.GNSSデータから求めた四国地域の短期的SSE
小沢 慎三郎 (地殻変動研究室)
プレート界面のメカニズムと摩擦特性を理解するには、SSEの研究が重要である。2012年1月から2022年4月までのGNSSデータにネットワークインバージョンフィルターを適用することにより、沈み込むフィリピン海プレートとアムールプレートとのプレート境界におけるSSEを検出した。その結果、2018年から始まった豊後水道、四国中部、紀伊水道における長期的SSEとともに、39の短期的SSEが検出された。豊後、四国中部、紀伊水道の長期的SSEの推定モーメントは、それぞれMw7.0、Mw6.5、Mw6.3と推定された。短期的SSEのMwは、5.7から6.4の範囲であった。検出された短期的SSEは低周波地震と同期し、多くは空間伝播を示した。Mw6.3以上のイベントはサブイベントで構成され、すべり領域全体が時空間で連続的に滑ることはなかった。個々の短期的SSEで推定される最大すべり速度は、約40~240cm/年の範囲にあり、プレートの収束速度よりもはるかに大きい。また、短期的SSEの滑り速度はモーメント解放量と相関していないように見える。短期的SSEの持続時間は7日から40日で、モーメントが大きくなるにつれて長くなるように見える。四国地域での短期的SSEのモーメントの総放出量は、時間の経過とともに単調に増加し、平均して約Mw6.4/年と推定された。2018年から長期的SSEが発生したとき、四国全域でモーメント放出量は変わらないように見え、広域的には短期的SSEと長期的SSEの間に相関関係がないように見える。
2.干渉SAR時系列解析による平成28年(2016年)熊本地震の余効変動について
桑原 將旗 (地殻変動研究室)
プレート間固着状態の推定の高精度化には、内陸活断層による粘弾性緩和の影響を取り除く必要がある。今回は、平成28年(2016年)熊本地震の余効変動から粘弾性構造モデルの構築を試みた。有限要素法プログラムPyLithを用いて、余効変動のデータとしてだいち2号(ALOS-2)の干渉SAR時系列解析の変動結果から、余効変動を説明する粘弾性構造モデルを試行錯誤的に推定した。2層成層モデルを構築することによって、断層付近から離れた場所における大まかな変動分布が再現できた。しかし、阿蘇カルデラ内での実際の変動とモデルにずれが生じる課題が残っており、今後地殻内構造の不均質性を取り入れた分析を行う予定である。
3.2016年熊本地震後に続く阿蘇カルデラ内の沈降は火山起源か? -粘性変形、余効すべり、火山性地殻変動の検討-
宗包 浩志 (地殻変動研究室長)
2016年熊本地震の後、阿蘇カルデラ内で顕著な沈降が続いた。この沈降が、マグマだまりの収縮に対応するものかを明らかにするため、GNSS時系列を用い、熊本地震による粘性変形を評価・補正した上で、地震時断層の延長面上における余効すべりとマグマだまりの体積変化の同時推定を行った。その結果、阿蘇カルデラ内の沈降は、カルデラ内の2枚の地震時断層の延長面上における正断層性の余効すべりで説明できること、マグマだまりの体積変化は地震後現在にいたるまでほぼ横ばいであるが、2016年、2019年、2021年の火山活動活発化に対応して体積増加が認められることなどが分かった。