最終更新日:2022年12月7日

地理地殻活動研究センター談話会 講演要旨集(2022年)

1. 地震時土砂崩れへの地殻変動及び先行降雨の影響
  遠藤 涼 (地理情報解析研究室)

国土地理院で運用している地震時地盤災害推計装置(SGDAS)では、大規模な地震の発生時に土砂崩れと液状化の概略発生位置と規模を推計しているが、土砂崩れの推計は過大傾向である。そこで、推計精度の向上を目指して、現在のSGDASでは考慮されていない地震時地殻変動及び先行降雨に着目して調査を実施している。これらの要素が他の素因・誘因と比較して土砂崩れの発生の多寡・分布に与える影響の程度について報告する。

2. マルチGNSS-PPP解とF5解の整合性について
  中川 弘之 (宇宙測地研究室)

宇宙測地研究室ではマルチGNSS-PPP解とF5解の整合性に関する研究を実施している。研究を進める中で、電子基準点の保守等によって生じる座標値オフセットがF5解とPPP解とで必ずしも等しくないことが判明した。そこで、国内7箇所のIGS点において2013年から2021年の期間について、F5解とPPP解のそれぞれについてオフセットを補正した上でその整合性を評価した。その結果、F5解に対するPPP解の日々の座標差の平均値の絶対値は、いずれの観測点でもおよそ5mm以下であった。また、座標差の時間変化は本土の5点では見られなかったが、離島の2点にはF5解由来の可能性があるドリフトが見られた

日時: 令和4年12月16日(金)
開催方法: オンライン会議形式

1. 電子基準点日々の座標 視覚化についてのいくつかの試み
  小清水 寛 (地殻変動研究室)

本談話会では、電子基準点の日々の座標(F5解、R5解)から得られる基線ベクトルの諸量(基線長や成分変化)を視覚化し、基準点管理や地殻変動監視に関する情報を抽出することを目指す試験的な取組みを紹介する。立地環境や局所的な地殻変動に由来する周囲基準点とは異なる電子基準点の座標変化を検出する単純かつ直感的な仕組みとして、短距離基線毎の短期間の基線ベクトル成分変化を電子地図上で集約・色彩表示する手法を提示する。より微妙で複雑な座標変化を検出もしくは継続監視するために、基線変化を平滑化したうえで、その移動平均速度を彩色表示する手法や、平滑化に伴う残差を視覚化する手法を提示する。さらに、基線ベクトルの成分変化を座標変換することにより、方向性(プレートの収束方向や立地環境の特殊性等)を意識して変動監視を行う視覚的手法を提示する。

日時: 令和4年11月16日(水)
開催方法: オンライン会議形式

1. 4次元の国家座標を管理する基盤構築に向けて ~位置情報管理へのSARの適用可能性~
  小林 知勝 (宇宙測地研究室長)

宇宙測地研究室では、4次元の国家座標を管理する基盤の構築に向けて、特別研究「災害に強い位置情報の基盤(国家座標)構築のための宇宙測地技術の高度化に関する研究」を実施している。4次元の国家座標を正確に管理するには、地表の変動を時空間的に詳細に把握する必要があり、そのための手法・技術を開発している。本発表では、その一環として取り組んでいる合成開口レーダー(SAR)による面的な変動計測(3次元変動解、時系列解析)の事例を紹介し、位置情報の管理への活用可能性について議論する。

2. 地表変動モデルの作成に向けた電子基準点の時系列モデルの高精度化
   古屋 智秋 (宇宙測地研究室)

本研究では、より高精度に地殻変動を追随することができる地殻変動補正パラメータ(地表変動モデル)の構築を目指しており、その構築は「F5解を用いた時系列モデルの作成」と「モデル値を用いた空間補間」に分けられる。本発表では、前者の時系列モデルの作成において2003年十勝沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震をはじめとする大規模地震に伴うコサイスミックな変動や余効変動、SSE等について考慮することにより、今回対象とした2003年~2021年の期間における電子基準点ほぼ全てで、大規模地震直後においても1cm以内のRMSでF5解に追随できるモデルとすることが可能であること等について報告する。

日時: 令和4年10月21日(金)
開催方法: オンライン会議形式

1. 海洋残差地形モデルの導入による沿岸ジオイドの精密化
  松尾 功二 (宇宙測地研究室)

本研究では、航空重力測量では得ることが難しい短波長な重力成分を海洋残差地形モデルによって復元することで、沿岸ジオイド決定の精密化に挑む。残差地形モデルとは、数値標高モデルをもとに地形由来の短波長な重力成分を推定したモデルである。残差地形モデルの適用は、陸域ではごく一般的に行われているが、海域まで拡張した研究事例は少ない。本研究では、日本周辺海域を対象に、ジオイド計算における海洋残差地形モデルの効果を調査するとともに、そのジオイド精度向上への効果を実測ジオイド高データとの比較によって評価する。

2. 90mメッシュMERIT DEMを用いた全球の地形分類用ポリゴンデータ作成について
   岩橋 純子 (地理情報解析研究室)

全球の地形分類データは、主として数値標高モデル(DEM)を材料として作成され、地形に関連する様々なテーマ、例えば土壌タイプや地震による地盤の揺れやすさの推計などに利用されてきた。しかし、DEMの解像度の関係で、既往研究のデータは、狭い谷底平野や、平野部の微高地などの微地形を抽出する事ができなかった。そこで、より高解像度のDEM(90m解像度のMERIT DEM)を利用するとともに、高解像度のDEMに特有のノイズやスケール問題の回避策を講じることにより、従来よりも細かな微地形の抽出が可能となった。本発表では、6月に公表した改良された全球の地形分類データについて、作成手法、特徴、使用法および注意点を、世界各地の事例を織り交ぜながら紹介する。

日時: 令和4年9月16日(金)
開催方法: オンライン会議形式

1.地形判読・解析に基づく屈斜路カルデラの湖成地形と火山性断層群の形成史
  吉田 一希 (地理情報解析研究室)

北海道東部のアトサヌプリ火山群は、新期アトサヌプリ火山1)(AT1):約15 cal ka以降に形成)と、同2)(AT2):約7.6 cal ka以降に形成)などから構成される。これらの西部に位置する屈斜路湖岸には、高位に約20~23kaの火砕流台地面と、高~低位に数段の湖成地形面が発達し、東岸ではこれらの面がアトサヌプリ火山群のドーム状隆起によって最大50mの垂直変位を受けたとされる。また、同領域には10条の断層が存在する。今回、1m LiDAR DEMと1万分1湖沼図を用いて、陸上だけでなく湖水面下を含めた地形面と断層の詳細な分布を明らかにし、これらの形成時期、垂直変位量及び地形発達史を再検討した。その結果、火砕流台地面の後方には波食崖が認められ、その崖はAT1)に認められ、AT2)には認められなかった。したがって、火砕流台地は約15 cal ka以降の波食の影響を受けた湖成段丘面であり、その平均隆起速度は従来説の約2倍にあたる約3.7~6.5m/kyrに達したと考えられる。また、同領域ではAT1)を切りAT2)を切らない多数の火山性断層が認められ、その中心部にはNE-SWまたはE-W走向の長軸方位を示す幅約1kmのグラーベンが認められた。

2.地形分類に基づく地震による地盤災害リスク評価の細分化の検討について-自然堤防と谷底平野の例-
  小荒井 衛 (地理情報解析研究室客員研究員(茨城大学大学院 理工学研究科(理学野) 教授))

SGDASでの液状化危険度の推計は、自然堤防では比高5m、谷底平野では勾配1/100を閾値に、地形分類図を再分類してリスク評価を変えている。利根川低地や中川低地では比高5mを越える自然堤防は少なく、比高2mより低い自然堤防での液状化発生頻度が高い。また、勾配1/100よりも急勾配な谷底平野は谷頭部分に限定されている。茨城県内の台地を刻む谷底平野については勾配1/500程度であり、東茨城台地の谷底平野では中流部で勾配1/100を示し、侵食前線が後退している途上を示していると考えられた。茨城県内の谷底平野の上流部では、常時微動計測結果から、緩勾配であっても沖積層の基盤深度は浅く、地盤災害リスクは小さいことと、幅の広い谷底平野では谷底平野の中心部ほど沖積層の基盤深度が深く、勾配のみでリスク評価を細分するのは難しいことが分かった。地形発達過程を十分に考慮する必要があると考えられる。

日時: 令和4年7月15日(金)
開催方法: オンライン会議形式

1.平成28年(2016年)熊本地震の断層破壊終端部における断層運動と密度構造の詳細
  小林 知勝 (宇宙測地研究室長)

本研究の目的は、断層破壊の終端部及びその周辺に特徴的な地殻構造が存在するかを調べることにより、断層破壊の終焉を制御する要因について議論することにある。本発表では、2016年熊本地震における布田川断層帯東部延長上の阿蘇カルデラ内の断層運動を対象に、SARによる地殻変動から推定された断層運動と重力によって推定される密度構造の空間的位置関係を精査した結果を報告する。

2.GPSおよびGLONASSの受信アンテナ位相特性の違いとその影響
  畑中 雄樹 (地理地殻活動研究センター長)

GEONET観測点の受信アンテナ等について、GPS観測およびGLONASS観測に対する位相特性の違いの影響を調査した。これまでに行われたGEONET用の位相特性検定試験のうち、GLONASS観測も行われた際のデータを用いて試験的な解析を行い、予備的な評価を行った。その結果、GPS用位相特性モデルで代用して得られたGLONASS解とGPS解との間には各アンテナ-架台タイプによって異なる最大1cm程度に及ぶ顕著な差がみられ、GLONASSデータで検定された位相特性モデルを適用することによりこの差が改善することが分かった。この結果は、GEONETの観測データをGPSとGLONASSの位相特性の違いを無視して解析した場合、両者の結合において最大1cm程度の内部不整合が生じることを示唆しており、GLONASS用の位相特性の検定方法や補正の有効性についてより詳細な検討が必要と考えられる。

日時:令和4年3月30日(水)
開催方法: ウェブ会議形式

1.平成28年(2016年)熊本地震の余効変動モデルによる予測値の答え合わせ
  水藤 尚 (地殻変動研究室)

2017年の談話会において、2016年4月に発生した熊本地震の余効変動に関して、地震後1.5年分のデータから余効変動モデルを構築し、粘性緩和と余効すべりによる変動の特徴や今後の変動の予測値に関する報告を行った。地震から6年弱が経過し、前回のモデル構築時から4.5年程度のデータが蓄積された。本発表では、前回のモデルの予測値とその後の観測値との比較の結果、データ解析における問題点(定常成分の推定期間、固定局および東北沖地震の余効変動の影響等)について、検討の途中経過を報告する。

2.マルチGNSS-PPP解析に関する研究
  中川 弘之 (宇宙測地研究室)

宇宙測地研究室では、昨年度より複数の衛星測位システム(マルチGNSS)によるPPPを用いて電子基準点の位置を計測するための技術開発を実施している。本講演では国土地理院で行われているマルチGNSS-PPPのための軌道推定の現状分析と、電子基準点のマルチGNSS-PPP試験解析結果のIGS daily solutionとの比較、及びF5解との間のバイアス等の分析について報告する。

3.自然災害伝承碑の普及啓発に関する研究
  岡谷 隆基 (測量新技術研究官)

国土地理院がその地図記号化を通して地域社会における防災意識の醸成を目指している自然災害伝承碑に関する取組について、普及啓発の意義付けにつなげることを目的に、自然災害伝承碑の所在と地形との関係を明らかにする研究を行っている。本発表では、洪水災害を対象とした自然災害伝承碑について、地形分類図やハザードマップ(災害想定規模)との対比を行った結果を中心に報告する。

日時:令和4年2月16日(水)
開催方法: ウェブ会議形式

1.干渉SAR時系列解析による平成28年(2016年)熊本地震の余効変動について
  桑原 將旗 (地殻変動研究室)

 平成28年(2016年)熊本地震発生の後、GNSS観測等により余効変動が観測されている。本発表では、約5年分のだいち2号(ALOS-2)のSARデータを用いた干渉SAR時系列解析により明らかにした、余効変動の面的な広がりおよび時間的な推移の特徴について報告する。また、現在余効変動を説明するモデルの構築に取り組んでおり、その結果についてもあわせて報告する。

2.2018年以降の西南日本のプレート間すべり
  小沢 慎三郎 (地殻変動研究室)

 水藤2017の成果に基づいて、平成28年(2016年)熊本地震の余効変動を考慮し、西南日本の遷移的地殻変動を解析した。その結果、2018年以降で見ると、2018年6月~2019年秋頃に日向灘北部で、2018年末頃に日向灘南部で、2018年10月~2019年秋頃に豊後水道で、2020年6月頃から日向灘南部で長期的SSEが発生していた。また規模は小さいものの、2020年半ば頃から日向灘北部で長期的SSEが発生していた可能性がある。加えて、2019年1月の種子島近海の地震後に種子島の沖合で地震後の余効すべりが推定された。

3.地表変動モデルの作成に向けたF5解の非線形フィッティングの検討
  古屋 智秋 (宇宙測地研究室)

 現在、国土地理院ホームページから公開されている「地殻変動補正パラメータ」は、電子基準点の日々の座標値(F5解)を元に、年周・半年周・トレンド等を踏まえて推定され、その更新頻度は3ヶ月毎となっている。本発表では、その時間精度の向上を目指し実施した、F5解の非線形フィッティングについて、各電子基準点のPPP解を活用することでF5解の見かけ上の変動(例:樹木によるF5解の外れ値)の影響を軽減できること等について報告する。

日時:令和4年1月21日(金)
開催方法: ウェブ会議形式