国土地理院時報(1996,第86集)目次
国土地理院が整備する空間データ基盤の特徴とそのGISでの利用
The Geo-spatial Data Framework Arranged by the Geographical Survey Institute and Possibilities of its Use in GIS
Topographic Department Jun SATO
地図部 熊木洋太
Cartographic Department Yohta KUMAKI
要旨
空間データ基盤とは,地球上に存在する多岐にわたる事象の位置や属性を明示した情報(空間データ)相互を正しい位置に対応づけるための枠組みとなる,骨格的なデータのことをいう。
この空間データ基盤は地理情報システム(GIS)を利用する上で,土台となるべき重要なデータである。
欧米ではわが国に先駆けて空間データ基盤の作成が始まっており,新しい形態のインフラの一種(情報インフラ)として認識されている。
わが国でも1995年1月の阪神・淡路大震災の救急活動等を円滑に行うために有効であったことを契機として,GISの重要性が再認識され,空間データ基盤整備の必要性が広く認められるようになった。
今回、国土地理院が整備した空間データ基盤は,行政界,街区,道路線といった重要で骨格的な項目に対象を限定し,位相構造化処理を行なったため,市町村の隣接関係や道路ネットワークのつながり等がGISで容易に把握できる。
また,街区単位でのアドレスマッチングが可能である。空間データ基盤の整備対象地域は,三大都市圏を皮切りとして,順次,地方中枢・中核都市圏等へも広げていくことを目標としている。
この空間データ基盤にユーザー個別の目的に応じて必要な他の情報を上乗せし,GISで処理することによって,行政や企業活動を効果的に支援することが可能となる。
さらに,個人ユーザーを対象としたGISソフトの商品開発等を通じて,生活や社会に大きな変化を与える可能性も秘めている。
ディジタルマッピングデータを利用したGISの試作研究-震災対策GISとそのプロトタイプ試作-
A Study of the Usability of Digital Mapping Data for Building GIS
the GIS to Deal with an Emergency in an Earthquake Disaster and its Prototype Made by the Geographical Survey Institute.
測図部 佐藤 潤
Topographic Department Jun SATO
地図部 鵜野澤茂
Cartographic Department Shigeru UNOZAWA
要旨
震災対策GISは平常時における防災対策と発災時の被害情報収集,復旧・復興活動支援を目的として構築される地理情報システムであり,国の防災基本計画でもその整備推進が明記されるようになった。
すでに国土庁や川崎市ではそれぞれの目的に応じたシステムが運用されている。
国土地理院では,震災対策GISの有効性のPRとその元となるデータの有効な取得手法であるディジタルマッピングの普及・促進を目的として,地方自治体が防災業務で活用することを想定した震災対策GISの基本的モデル(プロトタイプ)を試作することとした。
このモデルは発災後に行政機関が取る活動と平常時の防災活動を支援するものであることをめざし,パソコンで簡易な操作が行なえるものとした。
また,基図となるデータとしてディジタルマッピングデータを利用するものとした。
これらの設計コンセプトにのっとり,地震防災に関心の高い静岡県富士市をテストエリアとして,被害情報入力システム等,4種類の防災対応機能を持たせたモデルシステムを開発し,その評価を行なった。
野島地震断層周辺の地殻変動および被害・地形との関係-写真測量による変位量計測データおよびGISによる分析-
Tectonic Movements, Damages and Topography around the Nojima Earthquake Fault of the 1995 Kobe(Hyogoken‐nanbu)Earthquake
-Photogrammetric Surveys and Analyses Using Geographical Information System-
Geographic Department Minoru HOSHINO, Hiroko MIZUKOSHI,Yoshikiyo UMINO, Hiroshi MURAKAMI and Koji SANGO
要旨
また,この変位量の分布と家屋被害・地形との関係について,GISを利用した分析を行ったのでその概要についても言及した。
なお,上記の空中写真測量の成果については,既に日本応用地質学会・日本地理学会・日本地震学会・日本地形学連合・日本写真測量学会で発表し,概要については地理学評論(星野ほか,1996)に公表してあるが,その後多くの論文に引用され,また原データについての照会も寄せられたので,本報末に付録として原データリストを一括掲載した。
震災対策GISの基本構想
Basic Concept for GIS Utilization in Seismic Hazard Management
地図部 村上真幸・田中靖夫
Cartographic Department Masaki MURAKAMI, Yasuo TANAKA
要旨
一方,GISの導入事例で,必ずしも幅広い利用,十分な効果が上がっていない状況もある。
それは,災害対策におけるGISの利用の手法が確立されていないこと,GIS導入・利用のメリット・デメリットについての検討が十分なされておらず,導入に踏み切れないこと,又は,活用しきれないためと考えられる。
しかし,そのようななか,平成7年1月17日に発災した阪神・淡路大震災においては,いくつかのGIS利用の事例も報告されている。
本報告では,地震防災対策,地震時の応急対策,震災後の復旧対策においてGISがどのような場面で有効に機能し,どのような用途に利用できるか,また,同時にそれらのGISを導入する際の課題について調査することを目的に実施した震災対策におけるGIS調査作業に基づいて,震災対策GISの基本構想について整理した。
日韓VLBI・GPS観測
Japan-Korea VLBI and GPS Observation
測地部 石原 操・福崎順洋・吉村愛一郎・飛田幹男・雨宮秀雄・川原敏雄・根本正美・大滝 修・谷澤 勝
Geodetic Department Misao ISHIHARA, Yoshihiro FUKUZAKI, Aiichiro YOSHIMURA,Mikio TOBITA, Hideo AMEMIYA, Toshio KAWAHARA,Masami NEMOTO, Osamu OTAKI, Masaru YAZAWA
測地観測センター 板橋昭房・齋藤 隆・佐々木正博・飯村友三郎・宮崎真一
Geodetic Observation Center Akifusa ITABASHI, Takashi SAITO, Masahiro SASAKI, Yuzaburo IIMURA, Shin‐ich MIYAZAKI
要旨
VLBI観測は,大韓民国水原(スウォン)市に日本から移設した可搬型VLBI観測システムと鹿島VLBI観測局との間で行った。
平成7年10月から11月に24時間観測を4回行い,その内の3回について良好な解析結果を得ることができた。
また,GPS連続観測は,システムを國立地理院構内に設置して,平成7年3月からGPS連続観測を開始し,観測データの収集・解析を行った。
以上の観測によって得られたデータを総合的に解析することにより,両国間の測地網をミリメートル(mm)オーダーで結合することができたとともに,大韓民国GPS連続観測局や大韓民国経緯度原点の位置を国際基準座標系で表すこともできた。
また,この地域の地殻変動についても把握することができた。
土地利用変化検出のための空中写真の半自動解析手法に関する研究
Semi-Automatic Detection of Land Use Change from Digital Aerial Photos
測図部 松本 栄・星野秀和
Topographic Department Sakae MATSUMOTO, Hidekazu HOSHINO
地理調査部 政春尋志
Geographic Department Hiroshi MASAHARU
要旨
目視による地形図と空中写真の比較は,多大な労力と注意力,経験,知識等を必要としており,この作業を行う際の手助けとなるシステムの開発が求められている。
本研究は,計算機によるディジタル画像処理技術を用いることにより,修正・更新作業を効率化させるために行った研究である。
都市圏活断層図の作成について
Preparacion of Active Fault Maps in Urban Area
地理調査部 関口辰夫・中島秀敏・津沢正晴・吉武勝宏・政春尋志・田口益雄・小田切聡子
Geographic Department Tatsuo SEKIGUCHI, Hidetoshi NAKAJIMA, Masaharu TSUZAWA, Katsuhiro YOSHITAKE, Hiroshi MASAHARU, Masuo TAGUCHI, Satoko ODAGIRI
要旨
国土地理院地理調査部では,今回の地震によって大都市域で被害が集中したことから,首都圏をはじめとする三大都市圏,政令指定都市周辺の活断層を調査し,今後の地震災害対策の基礎資料として「都市圏活断層図」を作成した。
本稿では図の作成経過,表示内容,作成結果について報告する。
海水面上昇が海岸及び低地の土地条件及び土地利用に与える影響予測に関する研究
A Study on the Impacts of Sea Level Rise to the Land Condition and Land Use in Coastal Areas
Geographical Department Toru NAGAYAMA, Jun'ichi KANEKO
要旨
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第2次評価報告書サマリーによれば,紀元2100年までに数十センチ程度の海水面上昇が全世界で起こるとされている。
さらに,海水が熱平衡にいたる応答速度が遅いため,2100年以降も海水面上昇が持続すること,また海水面上昇量の予測の精度が高くないため,場合によってはこの予測以上の上昇も起こりうることが指摘されている(IPCC,1996)。
海水面上昇が起こることで,全世界の沿岸低地では洪水や高潮の頻発,それから湿潤化や塩水侵入がおこるとされている。
都市部等では防御施設などの建設により現在の土地利用を守ることはおそらく可能である。
しかし,それ以外の地域では海水面上昇の浸水域からの撤退も避けられない。
当研究では,日本の新潟平野およびタイのバンコク地区を対象にして,1メートルの海水面上昇が起こった場合を想定し,浸水域の範囲を推定した。
さらに,海水面上昇に付随する低地の地下水位,河川水位の上昇,塩水の内陸への侵入などによる土地条件への影響について予測し,それらが地域の土地利用に与える影響を土地利用の適性度を把握することによって見積もった。
さらに,浸水域の土地利用を代償するかたちで,土地利用の適性度に適ったかたちでの土地利用の配分を行った。
当研究は,海水面上昇による影響への対応として,土地に備わった適性を生かしつつ,沿岸域の土地利用の再配分を試みた例であると位置づけられる。
本研究は,環境庁の地球環境研究総合推進費による「地球温暖化による海水面上昇などの影響予測に関する研究」の一構成課題「海水面上昇が海岸及び低地の土地条件に与える影響予測に関する研究」として実施したものである。
日本の測地測量における統合処理の考察(II) ―高度角観測値の処理―
A Study of Combined Adjustment in Geodetic Network of Japan
―Processing for Vertical Angle Observation Data―Crustal Dynamics Department Katsumi NAKANE
東北地方測量部 黒石裕樹
Tohoku Regional Survey Department Yuki KUROISHI
要旨
その対策のひとつとして,高度角とGPS観測値との結合処理において,GPS観測値をジオイド面へ化成することを考える。
GPS観測値をジオイド面へ化成するため,
- JGEOID93から推定された鉛直線偏差を用いた場合,
- 天文観測から得られた鉛直線偏差を用いた場合,
- 鉛直線偏差を未知量とした場合,
の3通りの方法の計算を行った。
その場合,GPS観測の処理は,JGEOID93を用いた高さの推定値が極めて良い結果を示している。
高度角を観測値とする測地網は,公共測量など比較的小規模なものである。
このような小規模な測地網においては,楕円体面でなくジオイド面で処理を行っても問題がない。
阪神・淡路地方の臨時電子基準点
Operation of GPS Observation System in Hanshin-Awaji Area
Geodetic Observation Center Yuzaburo IIMURA
日本測量協会 増田 實
Japanese Association of Surveyors Minoru MASUDA
要旨
データの提供には,初めての試みとしてパソコンネットワークを活用した。
各種測量に臨時電子基準点を利用することで,既知点での観測が不要になるとともに既知点の観測データが公衆電話回線を利用してどこからでも取得できるために,測量作業の効率化に寄与することが実証された。