最近5年間の宇宙測地研究

研究課題事後評価書

提案課・室名
問合せ先
課・室名:地理地殻活動研究センター宇宙測地研究室
TEL:0298(64)4832   FAX:0298(64)2655
  代表担当者:宇宙測地研究室長 松阪 茂
研究課題名 最近5年間の宇宙測地研究
予   算  
研究期間 平成7年4月~平成12年3月(5年間)
分科会委員 ○竹本 修三  川崎 一朗  河野 宣之 (○は主査)
[1] 成果の概要
  • GPS:1994年(平成6年)から稼働しているわが国のGPS連続観測網(GEONET)による位置・変動検出の精度向上を目指して、最近5年間にアンテナ位相特性 、マルチパスやレドームの影響等を精密に調べ、これらが10cmレベルの系統的な誤差を与える場合があることを明らかにするとともに、新しいアンテナ位相モデルを構築し、GEONET解の改善を図った。また、大学や他研究機関の研究者とも協力して、GEONETで推定される可降水量を気象数値予報に応用するなど、GPS気象学を発展させ、天気予報の精度向上に大きく寄与しつつある。
  • VLBI:つくば32mアンテナを中心とした国内5局のVLBI観測網を完成させた。国際的にはNASAのCORE(VLBIによる地球回転連続観測)プロジェクトに参加し、太平洋地域のプレート運動を検出したほか、APSG(アジア太平洋宇宙測地)の枠組みのなかで、中国とのVLBI共同観測を実施し 、上海が8mm/年の速度で東進、ウルムチが14mm/年の速度で北東に動いていることなど、宇宙技術でなければ決して見いだし得ない基礎的事実を明らかにした。
  • 干渉SAR:干渉SAR技術の測地への応用として、関東地方北部の地盤沈下(数cm程度)を検出するなど、この技術が広い応用性を有することを示した。また干渉SARのための高精度画像マッチング処理に関する研究に着手し、0.1ピクセルの高精度で画像マッチングさせる技術を実用化した。
[2] 当初目標の達成度 測量・防災に係わる国家行政機関のなかの研究センターとして、GPS、VLBI及び干渉SAR等の宇宙測地観測・解析システム(ハード及びソフトを含む)の整備と維持のほか、得られた測定データに基づく国内地殻変動及びアジア太平洋地域のプレート運動の検出やGPS気象学などの分野で概ね使命に応える研究成果を挙げている。
[3] 達成度が不十分な場合の要因分析 GPSに係わる研究では、GEONET解析におけるクラスター結合に関する研究への取り組みが十分とは言えない。限られたマンパワーの効果的な割り振りのために生じた結果であると考えられるが、GEONET全体の解がクラスターの構成の変更により、どの程度影響を受けるかは、地震予測など微妙な問題を議論する場合に重要な問題であり、今後一層の研究の進展が望まれる。 また、VLBIとGPSのコロケーションに関する研究のほか、宇宙測地分野におけるわが国の責任機関としての国際的な役割についてもなお一層の拡充を計る必要があり、今後の発展に期待したい。
[4] 成果公表状況 研究成果は、いちはやく国内及び国際学会等の場で発表されており、そのうちの多くは論文・報告等の形で公表されている。最近5年間は、それ以前と比べて、査読のある国際ジャーナルに掲載される論文数が増えていることは評価できる。
国土地理院の測量・観測成果は外部の研究者にも公開され、地球科学の発展に貢献しているほか、成果の一部はインターネットのホームページを通じて一般にも広く公開されている。
[5] 成果活用の見込み GPS連続観測網(GEONET)による測定成果は、国内外の研究者に広く活用され、地球ダイナミクスの研究やGPS気象学の研究発展に多大の貢献をしている。 VLBIデータは、アジア・太平洋地域のプレート運動の解明のために貴重なものであり、国際的にも貢献している。
干渉SAR技術は地盤沈下の検出のほか火山活動の監視にも用いられており、地球物理学の研究のみならず、地球環境モニターや防災などの面でも社会に貢献している。
日本付近の最新の精密ジオイドモデルJGEOID98の構築や測地成果2000は、21世紀のわが国の測地基準系の基礎をなすものであり、その成果は、学術的な枠を越えて、今後幅広い分野に活用される見込みである。
[6] 残された課題と新たな研究開発の方向 [3]で述べた「GEONET解析におけるクラスター結合に関する研究」、「VLBIとGPSのコロケーションに関する研究」などの残された課題のほか、「次世代合成開口レーダーの運用・性能に関する研究」などが新たな研究開発の方向として挙げられる。
[7] その他、 課題内容に応じ必要な事項 測量、測地学、地殻変動研究を担う国家機関として多くのデータを有し、設備等も整備されている宇宙測地技術を用いた研究拠点の1つとして、さまざまな制度を利用しつつ、研究活動のさらなる活性化のために、大学や他研究機関との研究協力、人的交流を一層促進することが重要である。
総合評価  [1].十分な成果  2.一部不満足  3.部分的成果  4.失敗
測量・防災に係わる国家行政機関という枠組みのなかで、宇宙測地技術の精度向上や測定成果に基づく地球ダイナミクスの研究分野で十分な成果を挙げてきたと評価できる。