地理調査に関する研究開発

地理調査に関しては、1地震災害、2斜面災害、3火山災害、4環境、5地理調査一般、6手法開発、等の分野で多くの調査研究が行われている。以下では、これらの中からいくつかのものを取り上げて述べる。

地震災害

(1)野島断層周辺変位量図作成 平成7年度
兵庫県南部地震に際して、淡路島野島断層に沿って地震断層が現れた。この断層周辺の地殻変動を写真測量によって計測し、水平方向及び高さ方向の変動量を変位量図として取りまとめた。初めて写真測量により、地震による地表面の変動を面的に明らかにすることが出来た。

斜面災害

(2)数値地形解析による地すべり・土石流の活動に関する研究
-八幡平澄川地すべり災害及び出水市針原地区土石流災害-
平成9年度
平成9年度に相次いで発生した八幡平澄川地すべり災害(秋田県)及び出水市針原地区土石流災害(鹿児島県)について緊急研究を行った。
八幡平澄川地すべり災害については、写真判読及び現地調査により地形分類を行うとともに、地すべり前後の地形の図化を行ってDEM(数値標高モデル)化し、同じくすべり面の3次元形状をDEM化したものと併せて地形差分量や地すべり体積等についての解析を行ったほか、地すべり前後の樹木位置を写真測量により求め、地すべり各部の3次元移動量を面的に明らかにし、以上の成果を地形分類図にとりまとめた。写真測量により地すべり前後の各部の3次元移動量を面的に明らかにしたのは初めてである。

環境

(3)海水面上昇の影響予測に関する研究 平成2年度~
地球温暖化によって引き起こされる海水面上昇の影響を、主として土地利用の変化、土地条件の変化、経済的影響の推定、等の観点から国内(新潟)と海外(タイ)にテストサイトを設けて研究している。海水面上昇が、沿岸域の土地条件に与える影響、たとえば湿潤化や塩水浸入等を推定し、さらにこれらが土地利用適性にどのような影響を与えるかを推定し、その再配置を試みた。また、影響評価手法の統合化を目指して、社会経済モデルを構築し、数値シミュレーションを行った。この研究の一環として、基礎データの収集手法の検討とその精度評価も行っている。

(4)NOAA衛星のAVHRRデータを用いた月別植生指標の作成
国土地理院において受信したNOAA(極軌道気象衛星)のAVHRRセンサーのチャンネル1(可視域)及びチャンネル2(近赤外域)のデータから植生指標データを作成している。植生指標は植物の量や活力を示す値で、植物の可視域と近赤外域での反射率の違いをもとに演算で求められる。月別に植生指標から、植生の分布を推定することができる。また、長期にわたりデータを蓄積することにより、国土の植生の変化を監視することができる。処理されたデータはインターネットで提供している。
 定常的にNOAA衛星データを処理できるようにするため、NOAA衛星データの効率的な幾何補正手法や雲の除去について技術的検討及び開発を行った。

(5)地球地図に関する調査
地球地図プロジェクト実施のために必要な研究を行っている。これまでに、既存の標高データ(米国等が作成した1 km分解能の標高データ)の精度検証、NOAAデータを用いた土地利用変化が著しい地域の抽出手法に関する研究、座標変換プログラムの開発、衛星画像による更新手法に関する検討等を行い、平成10年度に採択された地球地図の仕様決定や整備手法開発に役立ててきた。現在は、地球地図データの提供に資する研究を行っており、メタデータの整備仕様とクリアリングハウス、地球地図データの各種のGISへの互換性に関する研究等を実施している。

(6)GISによるタンチョウの営巣地の解析 平成4~7年度
釧路湿原のタンチョウの営巣地の分布データと、1:25000地形図から取得した湿原、河川、道路、建物から、営巣地がこれらとどのような位置関係にあるかを解析(たとえば、営巣地の90%は、河川から265m以内にあり、道路からは104m以上離れているなど)し、これらの条件を満たす場所がどれだけ残されているかを求めた。タンチョウが営巣する条件はこれらだけで決まるものではないとは言え、GISを活用して、地理的分布からいくつかの条件を導けることを示すことが出来た。

(7)生物多様性保全の観点から見たアジア地域における保護地域の設定・評価に関する研究 平成8~10年度
人間による開発が進むことによる野生生物の減少が問題となっている。GISを活用して種々の地理情報や野生生物の分布情報から野生生物の生息地域を推定し、保護地域の設定及び評価に役立てるため、マレイシア国タマンネガラ地区と中国雲南省シーサンパンナ地区を対象として研究を行った。
タマンネガラ地区における研究では、ゾウ糞の分布をもとに、ゾウの生息地の地形条件を求めた。地形条件を標高値や傾斜等の定量的データに基づき解析した場合と、ランドサット画像からの画像判読により地形分類する方法によるものとは比較的良い一致を示すことが分かった。
シーサンパンナ地区では、ゾウの分布と植生、標高、村落からの距離、河川からの距離等の関係についてカイ2乗検定を用いて、それらの条件がゾウの分布に影響する要因であるかどうかをテストした。この結果、ゾウは常緑広葉樹林に多く生息し農耕地は避ける、村落との距離、河川との距離についてははっきりした関係がみられないことなどが分かった。

手法の開発

(8)等高線ベクターデータを用いた山地の地形解析 平成10年度~
グリッド形式のDEMよりも、等高線データによる方が地形の解析に有利である場合がある。特に現在入手可能な最も高分解能のグリッドDEMは1:25000地形図の等高線から補間して作成されており、この元データである等高線データの方が多くの情報を有している。そこで、1:25000地形図の等高線ベクターデータを用いて山地の斜面形(水平断面形、垂直断面形)を区分する手法を開発した。

上記の他にも、地理調査の分野で以下のような調査研究を行っている。

地震災害

  • 地殻変動土地条件図の図式の検討、及び図の作成 平成6~7年度
  • 都市圏活断層図の図式の検討、及び図の作成 平成7年度~
  • 日本海東縁部における地震発生ポテンシャル評価-地形・地質調査- 平成6~10年度

火山災害

  • 火山土地条件図の作成、図式の検討
  • 岩手山災害対策GISの試作 平成10年度

環境

  • 沿岸域環境基本図に関する調査検討 平成6~9年
  • 湿原変遷調査 平成8~10年度
  • 地盤環境に関する研究 平成7~9年度

地理調査一般及び手法の開発

  • 主題図の数値化、図式の検討
  • 典型的地形に関する調査 平成7~9年度
  • 東北地方の古地理に関する調査 平成10年度
  • 傾斜量図の作成とその応用 平成10年度